「へえ。三門市にこんないい展望台があったのかー。」
「ほんと絶景!星もよく見れるし、晴れててよかったね〜。」
「……というか、なんで17歳じゃない人達もいるの。」
奈良坂くんや熊谷ちゃん、三上ちゃん達が来てるのはわかる。しかし、呼んでないはずの緑川や古寺、国近先輩や太刀川さんなんかが来てるのは明らかにおかしい。
特に太刀川さん。なに平然と未成年に混ざってんのよ。保護者代理にしたって、もっとまともな大人を呼ぶわ。げっそりとした顔で呟くと、彼らは暢気そうに言った。
「よねやん先輩達が面白そうなことするって聞いたから!」
「わたしも同じだよ〜。」
「お、おれは奈良坂さんに呼ばれたので。」
「餅が食えると聞いてきた!!!」
おい、最後。餅っていうか、団子なんですけど。太刀川さんの来た理由に、私は深い溜息を着く。………とりあえず、米屋が三輪を連れてきてくれて、本当に良かったわ。
不機嫌そうな顔を隠しもしない三輪を、笑いながら宥めている米屋に、私は心の中でお礼を述べた。
三輪と霊感少女と06「あれが、なに?カルフォルニア座?」
「先輩、カシオペア座です。」
「こうやってゆっくり星を観察するのもいいものね。」
「ほんと。団子も美味しいし。」
「よし、餅焼くぞー。」
「わーい!」
「七輪!?太刀川さんそんな物持ってきてたのかよ!」
わいわい騒ぐ彼らに、私はふっと口許を緩める。玉狛に引き篭もりがちだけど、たまにはこうやって、みんなでわいわいするのも楽しいものね。そんなことを思いながら、三輪の方へと視線を向ける。
三輪は、みんなと少し離れた場所にあるベンチに腰掛け、一人静かに星空を眺めていた。……まあ、一人っていうのは少し間違いで、彼の隣にはお姉さんが座ってるんだけど。
私は、団子をいくつか小皿に移すと、それを持ってぼーっとしている三輪の元へ歩み寄った。
「良かったら、お団子どうぞ。」
「っ、……みょうじ。」
私が声をかけると、三輪はすっと目を細めた。彼は、玉狛の人間にやたら当たりが強い。……まあ、城戸司令派の人間だし、当然なんだけど。彼は私が差し出した団子を手に取ろうともせず、「一体どういうつもりだ」と冷たい声色で言った。
「どう、って?」
「この天体観測を企画したのはお前だと、陽介から聞いた。なぜだ。やりたいのなら、玉狛の連中でやればいいだろう。なぜ、わざわざ俺達を誘った?一体何が目的だ。……まさか、これも迅の差し金か!?」
「別に迅さんは関係ないわ。ただ、みんなで星空を見たいと思っただけよ。」
そう言って、三輪の隣ーーお姉さんが座ってる反対側ーーに座った私に、彼は疑いの目を向けてくる。まあ、信じてもらえるなんて始めから思ってなかったけどね。
私は団子を食べながら、空を見上げた。深い藍色の夜空に瞬く星々は、本当に神秘的で美しい。夜、たまに迅さんが支部の屋根に上っていくのを見るけど……ひょっとしたら、彼もこの星空を見に行ってるのかもしれない。
「……ねえ、三輪は星とか好き?」
「………。」
私は視線をそのままに声をかけた。
「私は今日までそうでもなかったんだけど、この星空を見たら何だか好きになっちゃったわ。星ってこんなに綺麗なものなのね。知らなかった。」
「……好きでもなかったのに、こんな企画を立てたのか?」
黙りだった三輪が口を開く。彼の抱いた疑問に、私はきょとんとしてから、すぐにくすりと笑みをこぼした。
確かに三輪の言うとおり。好きでもない天体観測をしようだなんて、普通なら言わないはずだ。
でも、それがあなたのお姉さんの願いだから。
言えるはずのない答え。でも、それは確かに三輪に関係のあることで、それを彼本人が尋ねてくることが、なんだか少し面白い。三輪の向こう側に座るお姉さんもふふっと口元に手を当てて笑っていた。
「私の知人に星好きな人がいてね。 秋の夜空もとても素敵なんだって熱弁されたのよ。それで、ちょっと興味を持ったの。」
「……星は秋より、冬の方がよく見えるだろ。」
「そうかもしれないけど、秋の星もいいものなのよ。ペガススの四辺形やカシオペア座とかも見れるし、秋の天の川なんかもあるらしいじゃない。あと、ペルセウス王子?みたいな神話に登場する星座が見られるって聞いたわ。」
「ふん。随分と詳しい人なんだな。」
「ええ。花も星座も好きなんですって。ーーあと、たった一人の弟さんのことも。」
「っ、」
「本当に姉さんは、花とか星座とか好きだな。」
「そうね。……でも、私は秀次のことも大好きよ。」
「…………。」
「………私、三上ちゃん達のところ行ってくるわ。そこの団子、好きに食べていいから。」
何か思うことがあったのか。三輪は私の言葉を聞いて、俯いてしまった。私はそんな彼をそっとしておこうと、ベンチから腰を持ち上げる。せっかくの姉弟の時間を邪魔するのも悪いしね。
すると、三輪はポツリと何か呟いた。
「……も、……きだ……。」
「え…?」
「俺も、星が好きだ。」
「『っ!』」
眉を八の字に、何だか泣きそうな顔でそう言った三輪に、私とお姉さんは目を見開く。それは私が先ほど彼に尋ねた質問の答えだった。
でも、きっとそれだけじゃない。三輪がどうしてそんな悲しそうな顔をしているのか、私にはわからないけれど、でもーー
私は、チラッとお姉さんの方に目を向ける。お姉さんは、手で目元を覆って泣いているようだった。そして、本当に小さい声で『ありがとう』と呟いた。このお礼は私へのものじゃなく、きっと三輪への言葉だろう。
(良かった……これでお姉さんの願いが1つ叶ったのね。)
私は2人を残して、静かにその場をあとにした。
「三門市に星がよく見える展望台があるの。いつか秀次と一緒に見に行きたいわ。」
「……でも、俺はあんまり星とか詳しくないよ?」
「大丈夫、私が教えてあげるから!きっと、秀次も星が好きになるわよ。」
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